震撼!デーモンが丘皆殺し幼稚園!

自己啓発型の小説です。

一話:幼稚園面接

一話:デーモン面接

 


じりりり!

 

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けたたましく固定電話がなり、そっと妻が私の方を横目でみた。
わかっている。口にするでもなく頷き、受話器を持ち上げた。
時間は夕方4時44分。

 


「もしもし、、、山下です」
「Yamashitaか!ウハハハ、合格だ。お前の息子たかしを明日の7時にバスで迎えに行く!ちなみにたかしは骸骨組だ。」
「が、骸骨組!!??」

 

 


「ウハハハ!ようこそデーモンが丘皆殺し幼稚園に!」

 


なぜこんなことになってしまったのか。

 

思い起こせば半年前、就職氷河期を経験した私は

 

妻の理解もあり、たかしを一流大学一流企業へ就職させ、安心安全な人生を送ってもらうプランへと送りだすはずであった。

 

 

しかし世間のお子様のレベルは高く、5才児で四則計算ができるのもざらであり、英語から中国語まで話せるお子様まで、この幼稚園受験に参戦してくる有り様である。

 

 

運良く一次試験を突破しても親を含めた面接となると、足元にも及ばず、家族全員で葬式のような正月を過ごすことになったのだ。

そんな一月のある日、買い物中の妻の頭上から白骨したカラスが落ちてきたのだ。

 

驚きながらも拾い上げたカラスの頭骸骨には、QRコードが刻印されており、そのQRコードから「デーモンが丘皆殺し幼稚園」への入り口となったのである。

 

いま思えば面接も異常であった。

 

でかいフォークのようなオブジェを持った中年男に案内された建物は、崖の上にあり、町の天気とは関係なく雷鳴が響き渡っていた。

 

 

 


古い洋館であるこの建物こそ、後のデーモンが丘皆殺し幼稚園そのものである。

 

コンコン。

ドアに張り付いた金属メタルでできた骸骨の加えた輪っかはドアノッカーの役割をしており、

 

なんとも悪趣味な洋館だと、圧倒されながらもどこか注意払わないといけないと当時の私はまだ構えていた

 

また妻は私以上に警戒しており、そんな二人だからこそ、息子であるたかしをこのような幼稚園に入園させるわけにはいけない。そう心に誓っていたのである。


「はいりたまえ」

 


ギギギギギギ!
軋むドアの開く音が、よりこの洋館の歴史を感じさせる。

 

じっとかたまっている私たち夫婦の眼前には、赤い絨毯が延びており、その先には、木製のデスクと人が座っている。デスクの上に置かれたこれまた骸骨のオブジェにカラスが止まっており、カラスの目線の先は、不気味に笑う男がいた。

 

目元は黒いメイクをしており、暗闇に2つ白い目玉を覗かせている。紫の唇は、月を研磨で磨いたように鋭い三日月型に浮かび上がり、ニヤリと笑うと、ノコギリの刃のように、舌はアマゾンにすむ蛇のように、ニョロニョロと動き長いのだ。人とは思えない男は話を始めた。

「くくく、何をしている。入りなさい。そこの椅子に座りなさい」

木製の4本足の椅子に私たちは座る。
ギギギギ
先程のドアが開く音に似た軋む椅子の音は、座ることでかかる体重に対して、椅子自身が悲鳴をあげたように感じる。

「くくく、さぁて幼稚園の説明から始めようか」

絶対にない。こんな幼稚園にたかしをいれたら、一流企業とか一流大学とか夢のまた夢、はいれる訳がない。むしろ生きて卒業できるのかも怪しい。ここは否定するでもなく、説明をたんたんと受けよう。そんな意思主張が私の頭の中を駆け巡っていた。

 


「では、まずはじめにお前らの夢はなんだ?」

「ゆ、夢ですか?」

唐突な質問だ。ここの幼稚園への入園を考えてもいないし、その場は適当に答えよう、そんな軽いノリで私は答え始めた。

「そうですねー。家族みんなが健康で幸せならそれでいいです。」

「はぁーー?なんだその答えは?」

「えええ?」

「夢はなんだと聞いて、幸せでいることだと?何も答えになってないぞ?お前にとって幸せとはなんだ?」

「えーー?いや、そんな急に聞かれても、、、」

「時間を与えたら答えれるのか?」

なんだ?なんなんだこいつ?

失礼にもほどがあるだろ。唐突に夢はなんだとか幸せとはなんだとか、ここは宗教施設か何かか?怪しい建物に怪しい人達。これ以上関わるのは危ないなぁ。
私は意を決して奇妙な男に断りをいれた。

 

 

 

 

 


「これは面接ですか?なら不合格で結構です。帰らせていただきます」

軋む悲鳴を話す度にあげる椅子から立ち上がり、妻を見て帰ろうと声をかけた。妻はいいのかしらと不安げな目線を送りつつも、この失礼な対応は明らかにたかしの幸せとは反対に動く異様さを感じ取った様子で、私と同じように椅子から立ち上がったのである。するとノコギリ歯の男は、また失礼重ねに話始めた。

「ぐはははははは!なんだなんだ!夢を聞いて怒るのか?失礼なのか?お前は何も考えずにここまで来たのだな」

「、、、な、、なんだと!夢は家族の幸せで何が悪い!」
私は、安い彼の挑発に乗るように感情をあらわにし、勢いのまま言葉をぶつけた。

「くくくくく。それが本当にお前の夢か??ならもう夢は叶ったのではないのか??」

「か、叶った?」

「そう、叶ってるだろ?幸せとは何かもわからない。そんなボヤけた目線、考えであれば、叶っているだろ?言い換えれば叶っていないのかも判断つかないんだろ?」

「うぅ、、、、」

私は悔しかった。幸せとは何か、夢とは何か、答えることもできないのに、怒りのまま反応してる自分の浅はかさが悔しかったのだ。男はカエルを飲み込む蛇のように満足げに踊る舌を止めることなく話を続けるのである。



「ぐははははは。まぁお前のような奴は多い。そう感情的になるな。幸せとは何か。これに答えがあるなら、人間は悩むことはないだろうな。答えがないまま、考えることをしないまま、人は生きていける。そのまま朽ち果て死んでいけるのだ。馬もヤモリも羽虫もみんな同じだ。幸せなんか何かを考えるまでもなく、生きることに精一杯なんだ。だが唯一人間は違うのだ。他の生き物と何が違うと思う?」

「、、、何が違うかーー?」

「くくくくく。暇があるんだよ。人は暇なんだ。生きることに。何故なら圧倒的に死より生が担保されてる。この先進国日本なら尚更そうだ。それは幸せを通り越し当たり前なこと、常識だと日本人は思っている。そこでだ。現れてくるんだよ。暇のこの空間に漂う時間の使い方という思想が。それは何をしたらこの暇の時間を有効的に使えるのか、言い換えれば、何をしたら幸せなのか。そこで私なりの答えを言おう。人の幸せとは、、、、、昨日の自分を越えていくことなんだよ」

「昨日の自分を越える??」

「くくくくく。そうだ。昨日の自分を越えるのだ。つまり成長だ。人生はギャンブルだと言うやつがいるが私は違うとおもう。運が人生を左右するなら人生全体の1割も満たないだろう。9割以上は必然から成り立っている。この必然は、自分が行ったこと、行えること、行っていくことにより作り上げていく。一朝一夕ではない。積み上げ作り上げた基盤であり、一吹きで消えるようなものではない人間力だ。毎日の日々を1日1日と感じるものではなく、連続しているものと感じ、連結させ努力を積み上げ、今を形成すると感じれていれるかだ。お前はどうだ?」

「。。。わ。。。私ですか?」

「そう、おまえだ。お前は日々なにを考えて生きている?曜日を見て、休みを逆算し、休みの日はゴロゴロと、部屋の隅の埃のように生産性のない時間に固まっている。スマホで動画や友人の動向を覗き見し、ボリボリと無感情な猿のような顔してお菓子をむさぼる。そしてまた仕事の朝になると、脳に不安な想像を与え、ストレスをため、俯きながら、まぶたを擦り、布団から這い上がり、月に数十万円という人生に何の影響も与えない給料をもらい、会社の幹部たちの奴隷として仕組みに気づかず、いや気づいてもなにもできず、なにも変えず、また休みを待っているのだ。さぁて、お前の夢もは本当に家族の幸せなのか?」
「う、ううう」
「ちがうだろ?お前はこの現状を脱却しなければならない。昨日の自分を越えなければならないんだ。そうだろ?」

悔しかった。こんな如何わしい男の戯言である釣り針が胸の奥の魂が居座る源泉にまで易々と届き、源泉の主を、一気につり上げてしまうのだ。思えば、振り替えればそうなのだ。私は何のために今働いている。妻のため子供のためだ。では自分とはなんなのだ。働き蟻のように脳を殺し、自分という存在は、女王のためと思えれば楽だ。だが私は人間。山下32才だ。したの名前はのぼるだ。アイデンティティーを持ち、思想を抱き、悩みや、いやらしさ、ずるさも弱みを持つ日本にすむ中流階級の男だ。ならばやはり思ってしまうのだ。私は何のために働いているのか。このいかがわしい男は、あわれな子羊であるわたしに救いの手を差しのべるのである。

「くくくくく。ではどうやって昨日の自分を越えるのか。それは目標を持つことなんだよ。ゴールがないと人は走れないし歩けない。歩きだしても、逆走しては遠回りで意味がないんだよ。目標、つまり夢を持つんだ。どんな自分になりたい?どんなことをしたい?それが決まれば、それに向かい、この一年、この一ヶ月、この一週間、このイチ日、この一時間、そして今、何をするべきなのか、何をしていくのか、考えが定まるとイチ日の価値が生まれてくるんだよ。お前が無駄に過ごしてきた日々が、カネにも変えがたい光輝くダイヤのように価値が沸き上がってくるのだ。だがゴールがない今のお前はなんだ?自分の地図がないから何処にいるのか何処に向かうのかも想像がつかないんだろ?」

「あ、、、あ、あ、、」

「マインドがないから薄っぺらな夢しか答えれないんだ。そして夢であるゴールを考えることを放棄をして、子どもにたくそうとするんだ。どうせいい大学にいれて、大企業にいれたいとかそんな浅はかな考えだろ?インターネットによって時代は次の時代に向かおうとしている転換点にまだそんなバカな考えを持つ大人が多くてこまるよ」

「じ、、じゃあこの幼稚園はなんだ!何を目的につくってるんだ」

「くくくくく。人間力を養うんだよ。」

「に、人間力?」

「そうだ。激動する時代の中でも変わらないものはある。それが人間力だ。逆境を乗り越える力、解決力、判断力、人を引っ張る力、魅力、オーラーがある。ペーパーテストでは図れない人間力これを養うのだ。そして常に昨日の自分を越え、目標を達成させ、いきる活力を与えていくのだよ。お前も考えてみろ?今の日本の学校教育は暗記型だろ?なぜ暗記型だとおもう?」

「いや、そうだなぁ。暗記をすることで努力をする力を養ってるとか?」

「なんだそれは。全く違う。少品種大量生産時代の流れからだ。今まではただ決まった物を作れば売れたんだ。だから言われたことを覚え実行するだけで良かった。だが、今はどうだ?この多品種少量生産の時代、選択肢があまたに広がるなか、まだ暗記しようとしている。暗記しようものならインターネットですぐ調べられるぞ?むしろインターネットでの調べ方を学ぶことがこれからの時代で必要だろ?そういうことを見極めていかねばならない。なのにまだ暗記学校のテストで高得点をとることを有りがたがる日本社会の古すぎるレールに子どもを乗せるのか?」

「ううう、、」

「ちがうだろ?1にいけば次は2にいき3でゴールということを日本の子どもは必死に覚える。だが大切なのは3がゴールであれば1から2は通らないといけないのか?もっと早くゴールはいけないのか?なぜ3はゴールなんだ?と疑問を抱き考え改善策を実行する。わかるか?この積み重ねが時代に錯誤されない人間力なんだ。ルールが安定していると思ったら大間違いだ。お前らは将棋のルールが絶対だと思い、ある日、銀が左に動くとなると、一気に計算が狂い詰まれてしまうんだ。」

「一体どうすれば。」

「くくくくく。お前はまだ悩むのか?答えは簡単だろ?この幼稚園に息子をいれろ。息子が変われば父親も変わる。次の時代に生きる子どもに、本質の分からない旧時代の大人が教育して何になる?子どもを不幸にするだけだ。」

「だ、、だが、こんな怪しい幼稚園に、たかしをいれるわけには、、」

「ぐははははは。まさかお前、この期に及んでまだ悩んでいるのか。ならいい。帰れ。こちらも選ぶ側にある。ここまで事実を言って、まだ凝り固まった足を引っ張るだけの常識の壁に囚われるのであれば、そのまま死ぬまで壁の内側で過ごせばいい。いずれ時代の巨人が壁を壊すだろうな。その時に人間力を持たぬまま生きてきたお前らは食い物にされて終わるのだ。」

「私は、、、私は、、、」

目頭が急に熱くなった。スポーツで負けた少年のように、忘れていた燃える心が、血液すべてガソリンとして真っ赤に発火していき、心臓から吹き燃え上がる火柱となり、眼球を熱く燃やすのである。忘れていた。いや忘れようとしていた。そしてやはり覚えていた!意識し始めた!私の中のワタシが、産声をあげ、その産声はそのまま発狂へと変わる。そしてむくむくと筋肉をつけ、私が作った常識の壁をロッククライミングしだしたのだ。

ノゾキタイ。このカベのソトのセカイをノゾキタイ。

心のワタシが私の作った常識の壁を越えようとする。私は急いで常識の壁を増築する工事に取りかかるのだ。

心のワタシが壁を上っているぞ!今すぐ常識を持って来い!

おーい!みんなと違う道はリスクが大きいぞ!

リ、、リスク??

そうだ!リスクだ!安定しなくなるぞ!

不安定、、、デモ、、ソトのセカイノゾキタイ。ミンナハ関係ない。自分はノゾキタイ。

まずい!みんながやってない常識が効かない!他に材料持って来い

おーい!もっと調べてから慎重に選んだ方がいいぞ!しっかり準備してからにしよう!

ジュンビ??

そうだ!準備だ!慎重に考えよう!

ジュンビ、、、デモ、どうせ、お前らなにもしない。シンチョウに考えてるふりして、ナニモシナイことを考えてる。オレ、ソトのセカイみたい。だからカベのぼる!

ダメだ。全く心のワタシが言うことをきかない。この日まで裏切り続けてきたからか、私の常識の牙城が完全に崩れかけている。心のワタシは待っていたのだ。生きる活力を。昨日なにしたのかさえ忘れてしまう人生を辟易しながら、この日を待っていたのだ。

オレ、ソトのセカイ見る!
壁のぼる!壁のぼる!

私の中の常識が次々に越えられていく。安定、安全、平等、勤労、給与、平日、上司。普遍的な絶対的な間違いない真理であり、ルールである常識たちが姿を変え始める。安定は不安定に、安全は危険に、平等は不平等に、勤労は不労に、給与は搾取に、平日は太陽が上るという日に、上司は人に。実は言葉の裏ではわかっていた当たり前が常識のシールに隠れていたもうひとつの姿を露にする。

オレ壁のぼる!オレ壁のぼる!

常識の牙城はいよいよ音をたてて崩壊した。

ドドドドドド!

自分のなかで常識が完全に砕かれた。そして壁の向こうに見えたのは、人生は一度きりというわかっていたシンプルな答えであった。あの人が言ったからこの人がそうするからではない。私自身どうなのか、この人生何をするのか。回り回ってごまかしてきたが、やはりここに戻ってきた。

オレ、ソトのセカイ、、、怖い。なにしていいかわからない。

涙が出た。必死で生きてきた。いろいろ食って頭を下げて、懸命に戦ってきた。そして出た心の答えが、何をしていいか分からないという子どもと何も変わらない答えに心底虚しくなったのだ。

「お、おれは、、おれは、、なんのために、、、」

赤い絨毯に膝は吸い込まれ、私は項垂れた。目からも鼻からも、口のなかでさえ、どばどばと漏れるガソリンのようにながし続ける。もしそこに火をつけたら、何処に燃え上がっていくのか、行きつく場のない山火事のようにただただ燃えていくのだろうか、きっとそうだ。私には何もないのだから。そんな私にノコギリ歯を開き、言葉を発した。

「くくくくく。面接は以上だ。結果は今週末に連絡する。とっとと帰れ。」

どうやって家に帰ったのか、その後のことは覚えていない。私は合格の知らせを聞いた受話器を置き、妻の顔を見て、言葉を振り絞り伝えた。

「たかしをデーモンが丘皆殺し幼稚園にいれよう」